しがない内科医の雑念

底辺医がなんか語っとる

病院都合の差額ベッド代は踏み倒せる説

っていうか説でなく事実なのだが、これについては複雑な気分だ。確かに自分や家族が入院するときに、大部屋が空いてるのに有料個室に誘導され一泊1〜3万円も払うとなると躊躇する(5万円なら本気で断る)。実際には自分は個室希望で、まぁ払えるけど、そうでない人も多いだろう。
大部屋が本当に空いてなくて(一見空いてても予定入院の予約ベッドとか他科のベッドとか言い訳は何とでもある)、有料個室になる場合はどうだろう。それでも払う義務はない。以前の総合病院勤務時は、そうして個室代を踏み倒す人が年に1人位は、いた。入院前の交渉で(そういうのを医者にやらせる病院もどうかと思うが、医者が交渉というか圧迫面接すると従いやすい)払わないが入院させろ、っていう人はほとんどいなくて、大抵はその場では有料個室入院のサインをするけど、後になって払う義務ないですよね?って言い出す。夏場、個室のエアコンの調子が悪かったから個室代は半額しか払わない!っていう人もいた。気持ちもわかるような、クレーマーのような。(実際、半額に割引ということはできないので、タダになったと思う)
いち勤務医としては、重症でなければ患者が個室にいようが大部屋だろうがどっちでもいいんだけど、中間管理職で毎月々々会議で収益収益ー、個室誘導ー、お前の科は少ないー、って言われてると、これは積極的に個室誘導して科の評判を上げ病院の儲けを出さないと病院が赤字になって自分達のしたい医療ができない!なんて、真面目だからそう思ってたけど、これは病院幹部による洗脳が奏効した一例だね。

でも確かに多くの総合病院の経営は、有料個室による収益に依存しているだろう。それは病院の非効率経営・努力不足もあるけどそれ以上に、そもそも現代日本の総合病院で真面目な医療を提供してたら儲からない構造になっている。厚労省は医療費を抑えようとしているので病院は生かさず殺さず、お役所の誘導通りにすれば何とか食ってける状態。儲かっているのは軽症多数のクリニックか、専門に特化した病院くらいか。例えば循環器急性期(カテーテル治療。心不全はだめ)専門とか、眼科で手術と入退院が多いとか。
まともな総合病院というのはマイナー科も備えてどんな疾患でも対応できるようにしている。そうすると収益性の悪い科や医者(必要ではあるが不採算部門)も抱えることになるから当然経営効率は悪い。現状、患者の利益になることは病院の収益性に反することが多い。経営第一なら焦げつきそうな患者(高齢・寝たきり・身寄りなし)は断るし、急性期を過ぎて保険点数の下がった患者は状態が悪くても退院させるか、他の病院に転院させる。厚労省の決めた保険診療では、ある程度はそのように患者利益に反したことをしないと赤字になる。現場の医者は1:科学的根拠に基づき、2:患者のためになり、3:病院の収益になる という3つの条件を満たす医療を提供しなくてはならないから(4:自身の生活 が犠牲になることもしばしばだが)、ドヤ顔の「差額ベッド代なんて払わなくていいんだ!」という意見には素直に賛同できない。
資本主義社会で十分な金も払わずに「患者さま第一」の医療が受けられるわけ、ないよね。

#効率化とはつまり、儲からない疾患や稀な疾患や不測の事態への対処などの"無駄"を削ること