しがない内科医の雑念

底辺医がなんか語っとる

保険診療を分かってない人

・この薬を出してください(いいって聞いたから)
・この検査をしてください(心配になったから)
って、注文ないし指示してくる人が結構いる。
例)内科にて、毎月PSAを検査してくれというおじさんや、ビタミン剤と大量のヒルドイドを希望するおばさん

サービス上、なるべく言うなりにしようとするけどできない場合、その理由を話しても「不親切」「サービスが悪い」と一蹴されがちなのは、多くの人がわが国の保険診療というものをわかってないからではないか。
医者は全員理解している。自分も詳しくはないが(ちゃんと学んだことがないし、勤務医としてはそれほど興味深いものではない)。その基本的な仕組みや病院のかかり方は一般常識として保健体育で教えるべきである。
保険診療の基本的な流れ】
被保険者に症状が出現し受診→医師が診察して病名(疑い含む)を登録し、それに対応した検査や治療を行う。医療費(医療機関と薬局)の0〜3割を被保険者が払い(自己負担≒窓口負担)、残りを保険者(全国健康保険協会健康保険組合)が払う。

この流れに乗らないなら、つまり患者(病気の素人)の好き勝手な検査をしたり薬を買うなら、全額自費になる。
保険診療とは、医療の専門家である医者(保険医)が、患者(被保険者)にある(ありそうな)病気や怪我に対し必要最低限の検査と治療を行った場合にのみ、被保険者の医療費の自己負担を3割以下にして残りを保険者に払わせるという仕組みである。
*だからその(およそ)公正かつ専門的判断に、素人があまり口出しすべきではない

#日本では美容整形など一部以外のほとんどの医者は保険医として報酬を得ているので医者の仕事とは、“保険者の決めたルール(医学的に正しいかどうかはさておき)通りに患者を取り扱う“ことである。だからどんなに“医学的に正しいこと“をしても、保険者がカネを出さなければ商売にならず仕事を継続できないし、裁判官が間違っていると判断すれば有罪になったり損害賠償の支払いをさせられる。(逆に医学的に誤ったことをしても、患者が文句を言わなければ大抵は問題にならない)
つまり保険医が追求すべき規範は医学(科学)的根拠よりも、それを参考にしてるであろう、保険者の決めたルール(診療報酬点数表と薬価基準)である。

ある医療行為が妥当でないと保険者が審査した場合には、保険者は医療費の支払いを拒否ないし減額し(査定)、その分は医療施設の持ち出しとなる。これが続くと医療施設はやってゆけなくなる。医者はそうならない範囲で医学的に妥当かつ十分な医療を計画実行し患者にも納得してもらわなければならない。つまり医学、医療経済(保険者のルール)、患者の希望(納得)の3者の一致点を探すのが医者の仕事である。
*なのでそこに、素人考えによる横槍をあまり入れないでほしい。落とし所が見つからなくなるので

わが国はこれまでは豊かだったので比較的良心的に、科学(医学)的に正しいとされる検査・治療はほぼ保険診療として認められてきたが、今後いよいよカネが無いということになると(既に一部そうだが)、効果があってもあまりに高額な検査や治療については保険診療として認めないということはありえる。大抵は禁止されている訳じゃないから(たぶん)、やりたきゃ自費でやればいい。(それで上手くいかなかった場合には医者が訴えられて負けたりするんだろうが)
*だから医者は決まりきったことだけをしとくのが無難で、リスクのある患者を避けようとするのは自然なことである。赤字かつ訴訟リスクのある積極検査・治療をするのは物好きだけだ

#保険者の決めたルールによる査定の仕組みそのものがおかしいとは思わない(おかしな査定はよくあるが)。医学(学問)と現実社会は違う世界なので、医学が社会に適用される際、主に経済的観点から変化して医療となる。
#今や高齢者の医療が日本国民全体の重荷なんだから、高齢者の負担増は正当である。