しがない内科医の雑念

底辺医がなんか語っとる

偽善の医療

80過ぎのジジババDM患者相手に、やれA1cが上がっただの運動しろだの痩せろだの食うなだのくどくど言う先生がいる。極めて真面目かつ患者思いと評判も良い先生で、自分がそうでないからというわけでもないが(たぶん)、しかし自分からすると偽善的に思えてならない。その年齢の人に厳格なDMコントロールをしても予後には貢献しない(どころかおそらく悪化する)報告が出ているのになぜ未だ旧態依然、A1cは(死ぬまで)低ければ低いほど良いという価値観のままで、患者の生活まで変えようとするのだろうか。もちろん昨今出てきて検証も不十分なデータよりも伝統的価値観(昔の教科書的知識)を重視する向きもあるだろう。では予後云々は抜きにして、もうあとおそらく数年しか生きられず今は食うことぐらいしか楽しみのない高齢者から、そんななけなしの楽しみを奪おうとして(現実的には患者らは食いたきゃ食ってその後あれこれ言い訳をする)、正しい指導・正しい診療の体っていうのはあまり浅はかではなかろうか。

痩せろ痩せろと言う太った医師というのは滑稽だが、医者も患者もそれについてはあまり触れない。あなたこそ痩せたらと言えるほど剛気な患者は稀であるし、太った医者はたまに自虐的に自分自身に言及するけれども、医師自身の体格(プライベート)と患者の肥満(仕事)は別の話というスタンスである。だいたい痩せろと言われて痩せられる人は数パーセント程度だろうか。たまに思い込みの強い人(男が多い)が急速に痩せることがあるが、中年以降の女性はいきなり運動したり極端なダイエットをするなどの変化を嫌う。

ようはいい医者(善人)ぶるなよと言いたいのだが、患者のためと称して無駄な検査や投薬・通院をさせるのは開業医の仕事の基本である。金のための偽善はまだ、意識してやってる限り微罪である。いや罪じゃない、仕事そのものが医学という曖昧なルールで患者というコマを扱う厚労省との駆け引きゲーム。最近はどの医療機関も経営難で、大きな病院ですら大して儲からない外来患者を手放さなかったりする。セコい話だ。だいたい検査なんて、異常が見つからなかったら無駄に侵襲与えてさらに金と時間も使わせてごめんなさい、くらい言ってもいいくらいだ。と思っているので、治療はもちろん検査も最低限にすべきだが、どんなに安定してても毎月A1c測って半年ごとにエコーをして薬は決して減らさないという生真面目かつ病院経営的には理想的な先生もいるんだよなぁ。