しがない内科医の雑念

底辺医がなんか語っとる

素人の要求2、医療は完全自由化できない

(2022-02-15)の続き。
コロナ第6波というのは終息しないままダラダラ続いてて発熱外来も続いている。
最近は会社の要求のみならず当人が最初からPCR希望っていうのもあるし(抗原検査で陽性ならその場で診断ついて解決だから事前確率高そうな人には勧めるが、私は抗原検査結果は信じないからPCRだけやれ、みたいな人も割といる)、ほぼ無症状で「早く結果が欲しいから抗原検査とPCR両方希望」って、そんなので抗原検査は滅多に陽性にならないからやるだけ無駄だって(PCRと抗原検査は同日施行し請求できるから病院としては損じゃないけど)。そこで要求を断ると怒る人もいるし説得に時間がかかるのも嫌だから、余程非常識(実例:治癒確認の検査を保険診療でとか、他院のPCR結果がまだ来ないからまたこちらでもやってくれとか)でない限り希望には従うけど、どの検査をするのか決めるのは医者である俺じゃなかったっけ?と思う。

コロナに限らずこういうことはよくある。ただ発熱外来は新患(一見さん)で、受診に慣れてない若い人が来るから、こちらからすると色々おかしなことを言うなぁってことが多いけど、当人にしたら医療も"金払ってサービスを買ってるんだら希望通りにして当然" "医者なんだからすぐ治して・必ず症状が良くなる薬を出すのが仕事だろ" "効かない薬や副作用が出たら返金・賠償せよ"くらいに思うかもしれない。

この勘違いは医療の特殊性による。医療は市場原理主義・効率化と相容れない部分がある。
(参考:http://www.orth.or.jp/seisaku/syutyou/sizyougenri.html
・医療は厳密にはサービス業ではない。情報の非対称性(高い専門性)、自然科学に基づいた合理性、公共性、人体が未知で複雑であり反応が予想できないこと、厳密な契約でなく良心に基づくこと、など。
・日本を含め世界中ほとんどの国では医療は完全自由化されてない。すなわち医師免許制度がなく誰でも医者になって好きな医療を好きな値段で売っていい、っていうところは、文明社会にはない。もしそうなったら、金持ちだけがまともな医療を受け、詐欺的医療が横行し、医療は利益追求第一で医学は発展せず、社会全体の不利益となることが明らかだから。(リバタリアン池田清彦は「この世はウソでできている」で医療を完全自由化しても問題ないというが、この点については明らかにこの人の意見は行き過ぎである)

こちらとしては、当然患者さんよりも多く深く広く持っている医学知識*に基づき、客観的全体的に考え必要性が高く妥当で効率的な診療計画を考えているので、相談の上、基本的にはこちらの提案に従ってほしいのだが、若くても年配でも、自分の症状について考えたりネットで調べてきた自説**"原因と対策"を披露し、医者はこれに同意しその通りに治療してほしい、って感じの人がいるけど、否定するのも角が立つから、そういうのは適当に流している。
こちらとしては、許容範囲内の要望には厳密にはおかしいと思っても従い、明らかにおかしい部分は否定し従わない。それだけでしょ。この医者は使えない、と思ってくれればどっかよそへ行ってくれるだろう。それでも残るのはクレーマーとヤクザ。

* :ちょっとネットでかじった程度で到達できるはずがない、と思っているけど、ピンポイント情報では簡単に負ける
**:専門知識もないのに思いつきの考えを自信を持ってプロに言っちゃうのはどういう了見だろうか。ダニング=クルーガー効果の虜か。