しがない内科医の雑念

底辺医がなんか語っとる

全員にコロナ検査しても意味がない理由

https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/covid-19-sakamoto

 感染症も統計も全く得意ではないけれども。

およそここに書いてるあるのでまとめると(意味の重複あり)

PCR検査には手間も金も時間もかかる
誰でも検査すると医療リソースが消費され、本当に必要な重症者の対応に支障が生じる
感度は30~70%とそれほど高くない
コロナと確定しても特別な治療法はない。症状が安定しているなら自然に治る
当初は封じ込め(接触者から感染者を抽出・隔離して蔓延を防ぐ)のための検査だったが、市中感染が発生している現在では、重症化しそうな患者や重症者の経過予測・治療選択のための検査になってきている
「サンプリングをしても現状を把握した方がよい」に対する反論:医療機関にそんな余裕はない。

 

加えて個人的には、アテにならない検査(後述)をしても参考にならず混乱させるだけなので無駄と考える。上には書いてないけど、検査前・後確率の話。

陽性的中率(陽性と判定された場合に、真の陽性である確率)≒検査後確率(事後確率)
は検査の感度・特異度に加え検査前確率(有病率)から計算されるということ。

http://www.chugaiigaku.jp/upfile/browse/browse2906.pdf
もしくは

感度・特異度・尤度比. 田村謙太郎. ナショナルメディカルクリニック. 信州大学総合診療科
https://medibito.net/wp-content/uploads/2014/12/%E6%84%9F%E5%BA%A6%E7%89%B9%E7%95%B0%E5%BA%A6%E5%B0%A4%E5%BA%A6%E6%AF%94-%E7%94%B0%E6%9D%91%E5%85%88%E7%94%9F%E3%80%802014.11.29.ppt
こちらが詳しい。抜粋すると(最後の方のスライド)

感度・特異度いずれも99%の高性能な検査を
1万人に1人の病気に用いると、陽性者のうち本当に病気の人はたったの1%で、99%は偽陽性なので、検査前確率の低い病気に検査しても結果を信用できない。(ただし、有病率の低い疾患でも診察上とても疑わしい症例なら、その時点で検査前確率は上がっている)
これに対し、同じ高性能検査を有病率(検査前確率)50%の病気(例えば流行中で症状も典型的なインフル)に用いると、検査陽性者の99%は本当に病気(偽陽性は1%に過ぎない)なので、この検査は信頼できる。

 

現在の新型コロナPCR検査の感度・特異度はもっと低いし(最初のリンクでも、コロナはインフルよりウイルス量が少ないとのこと)、かつ希望者全員に検査をするとなると、検査前確率は著しく低い(例えば現時点で数%程度?)、そうすると大量の偽陽性者が発生し、それが軽症でも入院だとか隔離ということになると、重症者の対応が滞るのみならず、どんな大混乱になるか想像つくだろうか(そもそも軽症で検査希望の時点でその人は精神が混乱している)。

ということで、よほど疑わしい人・重症者以外は検査すべきではない。

 

参考
ベイズの定理:事前確率は事後確率に影響する。検査後オッズ=検査前オッズ×尤度比

 


池田正行「MRI脳卒中の診断に役立たない」という話は示唆に富む。ようは、医者が診察して明らかに脳卒中なら(出血か梗塞かはCTで確認)、MRIは必要ない。仮にMRIで異常がなかったとしても、判断は覆らない=急性期脳梗塞を否定できない。(急性脳梗塞病変に対するMRI拡散強調画像の偽陰性率は、発症3時間以内で26%)

同様に、流行期に典型的な症状で来た発熱後数時間の患者はインフルとして扱えばよい(抗インフル薬が必要かどうかはまた別)。検査なんていらない、どうせ早すぎて陽性に出ない。明日また検査しようっていう人もいるけど、そこでやっぱり陰性だったとしても、だからって、出してた抗インフル薬を中止したりするのか?翌日陽性確認後に抗インフル薬開始するんじゃ遅い。発熱後3日とかいう人も、「他人にうつす心配から検査希望」ならばするけど、そうでなければ検査は不要(既に抗インフル薬の適応なし)。
原則、その後の治療介入に影響しない検査はしてもしょうがない
でないと素人考えに振り回され医療費ばかりが増大する(セコく再診料が欲しい医者は、また明日来てとか言うかもしれない)。

 

BSEの全頭検査が無駄である理由は、若い牛を検査し感染牛がいたとしてもプリオン量は検出限界以下だから。一般人を(だまして)安心させるためだけに、大金使って検査が行われていた。