しがない内科医の雑念

底辺医がなんか語っとる

専門バカと一般バカ。医療ビジネスというラットレース

専門外来というのは案外簡単で(10年も同じ分野だけやってりゃ誰でもできる)、基本的に狭い分野の病気の人しか来ないし、ほとんどが既に診断ついてる患者で、そうでなくても「精査した結果うちじゃない」と放り出せばいいし、専門分野における選択肢において(自己満足的に)悩みたきゃ悩めばいいし、専門家が悩むということは、言い換えればどっちも大きく間違ってないということで、患者としてはまわりにこれ以上この病気に詳しい人はいないという気持ちで来てるから、少々冷たくされても待たされても良くならなくても、あまり文句を言わない(ことが多い)。患者に対しては殿様商売、他科に対しては「わからないと思うがこの分野でオレは一流」って顔して、同業者間はなぁなぁで枝葉末節についてさも重要であるかのように議論したりする。これで満足するプライドの安っぽさ、それに立脚した教授を頂点とするヒエラルキー。都会ではこういう好き嫌いが許されるのです。

こういうのが馬鹿馬鹿しくなって一般内科にしたら(単にあまり仕事したくないから、ともいう)、そこは大雑把な何でも屋で、最新の情報なんていらないから、とりあえず何でも対応できる人が重宝がられる。つまりカメラや読影ができて、どんな病気でも何となく薬出してお互いに治療した・された気になって、その後一生do処方しとけばいいのである。

このご時世、収益を気にしなくていい施設なんか無いから、一度捕まえた(受診した)患者は離さない。一度でもLDL基準値超えが見つかっちゃったら一生スタチン漬けである。高齢者の治療適応はどうこう、といった情報は知らない。みんな若い時に見聞きした医学知識のまま70歳80歳、倒れるまで診療している。だんだん患者に近づいてきてるから、ある意味患者に寄り添った医療と言えるのか。はっきり言えば、一般内科医(内科に限らずだが)は総じてレベルが低い。

90歳近い患者でも血圧だのコレステロールだの眠剤だの下剤だの、薬は増える一方で、さらには、なんとなく(大抵はめまい・ふらつきで)撮ったMRIでバイアスピリン(70歳以降で脳無傷はまずない)、冷えだか血流障害だかよくわからないがエパデールかユベラ、おかずの胃粘膜保護剤にエクセラーゼ、ついでにビタミン剤も頂戴、みたいなのが10年単位で出されており、通院している限り続けられる。もしくは、主治(爺)医がリタイアしてこちらにまわってきたら、説得して中止したいが、薬大好き高齢者は多いし(若い医者というだけで信用されない)、薬出しても飲んでないのもいるし(怒らないから言ってくれ)、眠剤はしっかり依存してたりして、薬は足すのより減らす方が難しい。そういう事に疑問を持たなくなった時が、爺医になったってことか。

だいたいいつ死んでもおかしくない老人に健康診断もないだろう。それでも全く異常ない人がいて、そこには「A:異常ありません。毎年健診を受けましょう」って書いてあった。健診結果は決して負けを認めないね。異常ありませんでした、検査するだけ無駄でした、ごめんなさい。くらい書いてもいいんじゃねーの?もしくは異常なければ全額返金とかね(高齢者はどうせタダか)。
80代で一切異常値なしも、むしろ異常だが、そもそもこの無症状の高齢者に健診する意味って何だろう。何だろうっていうか、無いんだけど。商売上、もうやめたら?とも言えないし。健診で中年女性や高齢者が少々LDLが高いくらいは無視するが、暇な勤務医で病院からは患者増やせと言われている手前、通院してスタチン出してる人にあんたそれ意味ないよ通院しなくていいよとか、アムロジン2.5mgなんてやめてみたら?とか、高齢者にもう健診やめたら?来なくていいよ、とも言えず。つまりは病院・クリニックで医療を提供というよりも、国の財産を食いつぶす「商売」の片棒担ぎをしていることに自己嫌悪を覚える。経営者なら割り切ってできるかもしれないが、定額給料の勤務医は患者をたくさん診るほど損だし、患者としても無意味に通院して金払って(下手すると9割は税金)薬飲むなら、得するのは施設(経営者)だけだ。おかげで自分の給料が出るわけで、キレイゴトなんて甘いんだが、ちょっと待てよ、自分を含めみんなが払った税金を奪い合って、それが足りなくなったら税金が増えて、それをまた奪い合って、って無限ループだよ! となると当然、厚労省は医療費を減らそうと診療報酬改定でじわじわシメてくるが、医療施設としてはなんとか余計に金を取ろうと、持ってるリソース(設備と人員)をフル稼働させ無駄な検査や入院三昧・通院継続薬漬け、そうして最大利益(もしくは生き残り)を目論む。こんないたちごっこを続けてちゃ医療は永久に最適化されず、医療側はいつまでも患者の不安を煽って素人を騙して無駄な検査・と薬を出し続けるしかない。
おっと、施設(経営者)もいちプレイヤーであって、一人勝ちは大手製薬会社(カテ・医療機器メーカー)だった。(開発費のない中小製薬会社はゾロでやってくしかないか)

といった構造的問題に気付いてないとしたら、どんな「いい大学」を出ててもバカ医者だし、専門分野の近視眼的研究や専門外来しかしないオタク医者がメーカーにおだてられて喜んでるのも見苦しい。
以上より、現在の日本では、自分が有意義と思える医療をするのは難しい。

納得できる業務形態とは、その時点で客観的に意義があると認められた必要最低限の医療のみを粛々と提供することだが(それ以外は自費)、それだと医師個人の裁量の範囲はとても狭く、つまり不自由な医療で、外来は役所の窓口みたいになって、それはそれで相当つまんないだろうな。