しがない内科医の雑念

底辺医がなんか語っとる

医学部経済学科

医療経済の話ではない。書店の経済誌コーナーを見てたら医学部入学ハウツーみたいなムックがいくつもあった。受験コーナーでなくこちらに置くということは、そこそこの金と地位のあるおじさんは子供を医者にしたがっているということか。
数年前から医学部人気と言われている。こちらとしては理由がわからない。医者がオイシかった時代は約20年前に終わっているから、もう遅い。豪勢な接待やら昇給は、およそバブル期までか。そういうのを自分はほぼ経験できず、給料は20年以上変わらず、接待もなくなり、患者の立場はどんどん強くなっている。ただ若い医者の待遇は確実に良くなっており、昔のようなパワハラ長時間労働は当然ではなくなった(好きな人は自主的にやってる)。その分、上級医だから楽をできるというわけでもなくなった。医者でキツいのはまず最初の10年くらいだけで*、若い時はなんとかなるだろうから、最近の(といっても20年くらいだが)変化をして“医者の待遇が良くなった“とは言えない。一番普通な内科で常勤の場合、50歳代まで週1か2週に1回程度の当直をやり、眠れぬ夜を過ごし、フラフラになりながら翌日も働き、また休日にオンコールで呼び出される可能性がある。産婦人科はもっと頻繁だろう。
* 科によるが内科は約10年で、マイナー科はもっと早く一人前になるので、その後は好きな施設に移ればいい。ただし地方は絶対的に人手不足なので、当直もずっと続くし、キツそうだ。
誰かが、医者は昔は将校だったが最近兵隊になってしまったと言ってた。将校は替えがきかないから優遇されるがそれなりにキツいこともある。兵隊は代わりがたくさんいるから時間で交代できるけど待遇は低い。

現在の労働環境に納得できないなら開業するか、比較的楽な施設に移るとか、またフリーターという手もある。最近は転職及びバイト斡旋サイトが充実しているから、バイトだけで食ってる医者も結構いるだろう。ただバイトゆえ、週1とかの固定でもいきなり切られることがあるし、スポットバイトは取り合いで、適当な案件出てこない日もあろう。

他職種と比較すると、専門職だから仕事が身についてしまえばどこでも働ける、転職(といっても仕事はほぼ同じだが)の自由度は高く、給料も比較的高いのが魅力的なのかもしれない。が、医者からすると一流企業や銀行なんかの方が安定的に昇給できて(出世できれば、だろうが)、給料は医者と大差なさそうに見える。気を使って散々こちらを持ち上げてくる大手製薬メーカーのMRもまた、自分ら勤務医と同じくらい貰ってたりして、複雑な気分である。素直に偉そうにしてる医者は馬鹿かと思う。
年収一千万円以上の企業に入るのは難しいし、続けるのも大変だし、会社はコケる可能性もあるから(一流なら転職も容易そうだが)、それなら医者になる方が簡単ということか。ただやっぱり医者は専門職なので向き不向きがある。向かないと本人はもとより患者の被害が大きく、社会的にも害だ。患者のために尽くしたい気持ち、もしくは医学への探求心、いずれかがあれば、現代の医者の働き方は多様なのでどこかに居場所はあるが、いずれもない、ただ勉強ができるだけとか効率的に金を稼ぎたい人には、医者は向かない(珍しくまとも・真面目なことを書いていると自覚している)。純粋に金稼ぎに興味があれば素直に金融へ行けばいい。ゲームとしても面白いだろうし、才覚があれば勤務医など比較にならないほど儲けられるだろう。勤務医の年収なんてたかが知れているし、開業したところで中小企業の社長程度のものなので、夢は大企業で何百人も動かして世界的に活躍したい、とかなら医者の仕事はあまりにも細かい現場作業。研究して特許で儲けるなんていうのも、言うまでもなく現実的ではないギャンブル。そもそも日本の医療制度は社会主義的に管理されているので、医者が大儲けできるような構造ではない。米国の医師の年収と比較すれば明白だ。

医者に頭の良さはあまり必要ない。馬鹿でない程度で十分。あとは(臨床医の場合)真面目・素直でコミュニケーション能力があってそこそこ勉強好きならいい。勉強嫌いはだめだ、一度は医学全体を俯瞰する知識を得、以後は専門分野だけでも一生知識を更新する気がないと、全人的な医療ができない近視眼医者、もしくは古い(≒不適切な)医療をするジジ医になってしまう。医者はワーカホリックで献身的な人が多いけど、自分のようにそうでない者でもやってけるので、必ずしも勤勉である必要はない。自分は絶対やりたくないような仕事(作業)でも、そういうのをあまり嫌がらない先生が必ずいるものだ。

ということで、医者は比較的“潰しが効く“職業ではあるが、それはなんとか食ってくのに困らないという程度の話で、当然だが一定の専門内容を何十年もじっくりやってかないと、それなりの地位につくことはできない。
頑張って受験戦争に勝ち抜いたあなたの子供が、最終的に単なる“時給のいいフリーター“になってもいいのか?