しがない内科医の雑念

底辺医がなんか語っとる

安心してください、あなたが間違えるのは頭が悪いからではなく脳のクセです

2021-12-01 医者の話がわからない理由
にも書いたけど、どうも意思疎通が難しい理由について、某メーカーの資材に書いてあったのを元に考える。
認知バイアス(≒人間の脳がしやすい勘違い)の分類は複雑でいくらでもあるっぽい。一方ヒューリスティックは日本語で発見的手法、経験則と言われるけど直観的判断っていうのが近い。問題を無理やり単純化して考える、脳の省エネ・サボり癖のこと。効率的思考の失敗例って感じか。

現状維持バイアス「まだ大丈夫だから、このままでいい」
高齢者ほど顕著。変化を嫌うというごく普通の性質で、よくというよりも常にある傾向。酸化マグネシウムは粉にして!錠剤はダメだ!!みたいな患者もいる(砂を噛むようなのが好きか)。治療したくない・薬を増やしたくないという人もほとんどがこれ。治療を始めるとやめられなくなるのでは?っていう人もいるけど、やめたら現状に戻るだけでいつでもやめられますよと言っている(ステロイド剤等は除く)。高血圧や高脂血症は予防のための治療だから当初は当然無症状で、そういう人にデータだけで治療開始を納得させるのは難しいかというと、世間では高血圧やコレステロールは悪・危ない・治療するのが当然っていう風潮で、まわりにもそういう薬を飲んでる人が多いので、それを利用すると割と抵抗なく治療開始できる。日本人には、現状維持バイアスよりも同調圧力の方が効きそう。

サンクコスト・バイアス「ここまでやってきたのだから続けたい」
あるおじいちゃん先生は、患者に100歳までは検査(毎年内視鏡とか)と治療(スタチンとか)を続けましょうって言ってて、たまにそれが嫌で逃げてくる患者がいるけど逆に、それが当たり前になっている患者に私が、もう90歳だから毎年検査しなくてもとか、薬を減らしましょうって言っても、せっかくこれまで長年やってきた・飲んできたのだからやりたいってことも多い(現状維持でもある)。こういう人が癌になって大学病院通院中にもかかわらず、やはり毎年恒例の市の健康診断やGFは希望するんだけど、それどころじゃないだろって言いたい。
#本当にぴったりくるのは、塩漬け株損切りしづらい気持ち

利用可能性ヒューリスティック(availability heuristic):取り出しやすい記憶情報に頼る。医師の薦める治療より、最近見た広告や知り合いの話を信じてしまう。身近な人が膵臓癌になったから、自分も調べて欲しいって来る人。テレビで取り上げられた病気が心配になり来る人。
先入観・アンカリングっていうのは本当に強くて、雛鳥の刷り込みみたいに最初に得た情報を信じがち。もしくは、論理的結果・結論(例:ワクチンは科学的に一定の効果が証明されている)と自分の感覚・感情・直観(例:遺伝子操作や人工物は悪い)が矛盾する場合に、自分の意見と同じ学者や説のみを見聞きし、信じる(確証バイアス)。こういうのがツボにハマると宗教とか陰謀論・反ワクチン信者になる。
前者の論理的な人と、後者の感覚・感情的な人は互いに相容れない。因みに医者は前者が多い(と信じたい)。

ヒューリスティック