しがない内科医の雑念

底辺医がなんか語っとる

「健康第一」は間違っている

名郷直樹。
この人の本を読むとますます仕事をやる気がなくなる。
今、自分が何も考えずせっせとやっている仕事の無意味さを冷静に指摘する。

タイトル通りで、何をしてもしなくても、歳を取れば病気になっていずれ全員死ぬ。どんな薬を飲もうが節制しようが大差ない。介入で死亡率が下がるというよりも発症・死亡をほんの少し先延ばしにできるかどうか、というだけ。ならば金と時間を使って通院して薬を飲むのをやめるという選択肢があってもいいんじゃない?ということだけど、医療側としては言いにくい。クリニックの大半はそれで食ってるから、まさか「この歳で血圧180以下なら薬飲んでも意味ないからもう来なくていいよ」などとは言えず、製薬メーカーはまさに「(若干の)効果がある毒にも薬にもならない薬」を売って儲けている。患者もまた、悪いと思うような生活習慣は変えずに薬やらサプリメントといった免罪符に頼って”私は健康に気を使っている”と健康欲を満たしている。もっと貪欲な人は、考えうる最高の生活習慣と適度に医療(健診)も受け、これで病気になるわけがない、と思っている。それで病気になると、こんどは治療しているのだから治らないわけがないという。いずれもおかしい。

評判の良い医者とは、患者の要望を満たす医者である。
といっても本当に病気を治したり防いだりはほとんどできない。現代医学の限界。でもその場しのぎの満足感を与えることならできる。まず話を聞く(無駄でも)。そこまではよいとして、その後やれリハビリだの薬だの、これをやればよくなると希望を与える。けれども、それで実際に良くなるかというと、プラセボ効果程度か。それでも無いよりゃましか?降圧薬や高脂血症薬なんて予防薬だから、そもそも効果なんか実感できないお守り。現実には血圧を下げても脳梗塞にはなるし(特に高齢者)、コレステロールを下げても心筋梗塞になるし(欧米人に比べたらずっと少ないから一次予防はほとんど意味ない)、がん検診をしても死亡率は下がらない。いちいちNNTの数字を示したら、その程度しか効かないの?ってことになるだろう。けれどもそういった議論はせず、とりあえずそれっぽい医療を提供し、受け、お互いにやるべきことをやった感で満足している。この虚構の、医療提供+患者努力=改善ゴッコをいつまで続けるんだろう。

医者が本当にすべきなのは、予想される治療介入の効果を数字で示して相手(患者?本当に病気なのかというところから議論が必要だが)に理解させてからどうするかを相談することだけど、患者の多くは高齢で、そういった人たちに理解せさせるのは難しい。ほとんど理解されない。大抵はただこちらのことを、不快なことを言う若い医者だなぁ(60歳以下は若造)と思うだけ。理屈よりも感覚・感情。高齢者のみならず日本全体がこういう事を考えたこともなく「病気があるなら適切に対処しなくてはならない」「医療は死を遠ざけるために全力であるべき」と思考停止している。けれども人生、あるところから先は死に抵抗しても無駄である。死を受け入れないのは不自然で非効率で、自分も周囲も幸せにならない。著者の言うように、末期がん患者のみならずある程度の年齢・状態になったら死を遠ざけることから死を受けれた生き方(医療を受けるかどうかというところから)に変更する、という考えが浸透してほしい。